@article{oai:ksu.repo.nii.ac.jp:00001303, author = {高山, 秀三 and TAKAYAMA, Shuzo}, journal = {京都産業大学論集. 人文科学系列}, month = {Mar}, note = {トーマス・マンの初期の小説には,きわめて問題的な母性が数多く登場する。『小さなフリーデマン氏』のゲルダ・フォン・リンリンゲンは,母性を求める異形の主人公フリーデマン氏を誘惑しながら,最後はサディスティックにはねつけて死に追いやる。『プッデンプローク家の 人々』のゲルダ・プッデンプロークは,病弱な少年ハノーの母親であるが,自分の世界に閉じこもるタイプである上に,夫以外の男性と秘密めいた交遊をしている。愛情に乏しい家庭で育った息子は人生を忌避するようになり,病死する。『トニオ・クレーガー』の母親は,これらの女性ほど冷たい印象ではないが,派手な,浮ついた性格を息子であるトニオから批判されている。  これら三人の女性は,非常な美人であったり,音楽を好んだり,よそ者であったりする点で,いずれもマン自身の母親を思わせる。しかし,二人のゲルダがすがりつく男や息子を死の方向に押しやるのに対して,トニオの母は社会的に逸脱する点はあっても,その本能的ともいえる愛情によって息子の生を後押ししている。実のところ,これらの小説にマンの母ユーリアの実像を探ろうとしても,それはマンのアンビバレントな姿勢やアイロニカルな輪晦によってきわめてわかりにくいものとなっている。エッセイや手紙の中では,マンは母親の美しさや音楽の才能,社交界での人気を誇り,彼女は母性愛のきわめてつよい女性であったと語っている。こうした証言は必ずしも鵜呑みにすることはできないが,芸術家として生きたマンが,その芸術家気質や才能の大半を母ユーリアから受け取り,その愛情によって芸術家の道を歩むことができたのはまちがいない。マンは,芸術家であることを呪いと観ずる一方で,多大な喜びをそこから得ていた。初期の作品にあらわれる母性へのアンビバレントな姿勢は,何よりも,マンを芸術家たらしめた第一の要因である母ユーリアへの愛憎が生みだしたものである。}, pages = {104--134}, title = {トーマス・マンの初期作品における母のイメージ}, volume = {40}, year = {2009} }